第107回全国高校野球選手権兵庫大会(県高校野球連盟、朝日新聞社主催)が5日、開幕した。開幕試合は、明石トーカロ球場で午前9時開始予定の神戸北・伊川谷北・神戸学園都市―姫路南。試合前に始球式があり、ソフトテニスで活躍する須磨学園3年の中谷ももこさんが投手役を務めた。
中谷さんは、大きく振りかぶって投球し、ワンバウンドで捕手のミットへ。球場は拍手に包まれた。
164校、153チームが計9球場で熱戦を繰り広げ、順調に進めば、決勝は27日、ほっともっとフィールド神戸である。入場料はいずれの球場も大人900円、中高生・65歳以上・障害者400円、小学生以下は無料。
87%の球児「甲子園に憧れある」
高校球児はなぜ、高校野球の聖地・甲子園に憧れるのか。兵庫大会に出場する全153チームにアンケートすると、夏にかける思いが見えてきた。選手やマネジャーなど計544人から回答があった。
「甲子園に憧れがあるか」とたずねると、87%にあたる474人が「憧れている」と答えた。
一番多い理由は「子どものころに甲子園で活躍する高校生を見たから」で、126人。兵庫県西宮市にある甲子園は身近に訪れることが出来る場所だった。「亡くした祖父との約束だから」や「甲子園に出場した父から野球を教わったから」など、26人が家族の影響があったと答えた。
プロ野球・阪神タイガースの本拠地でもあり、「同じ舞台に立ちたいから」が8人。「歴代の高校球児の汗と涙が流れた場所だから」「高校野球といえば甲子園だから」などの理由もあった。
「甲子園は気持ちがいいぞ」
「甲子園で指揮を執っている父の姿を見て、一緒に出たいという夢を持った」。東播磨の福村泰輝主将は、そう答えた。
父は福村順一監督。加古川北や東播磨の監督として春夏3度の甲子園出場経験がある。
2021年、東播磨が春の甲子園に出場した際、スタンドから見た選手たちは笑顔で、いきいきとして輝いていた。甲子園から帰ってきた父は「甲子園は気持ちがいいぞ。球場に吸い込まれる感覚がある」と話した。
「他の球場じゃ味わえない何かが、甲子園にはあると思う。父とあの場所に立ちたい。甲子園をめざすこと以外はありえない」
「清美を甲子園へ」
白陵の小柳朝陽選手(3年)は「清美を甲子園へ」と帽子のつばに記している。
家庭の事情で小学2年のころから、祖母の清美さんらに育てられた。清美さんはどれだけ忙しくても、ユニホームを洗濯し、毎朝おにぎりを作ってくれた。
祖母への恩返しは「甲子園に連れていくこと」。小さい頃から見てきた甲子園は、心から人を感動させられる場所だと思う。「甲子園があるから高校野球を頑張れる」
「憧れるのをやめた」
甲子園への憧れが「ない」と答えたのは70人。理由はさまざまで、「野球は趣味でやっているから」「目指しているのはチームで1勝だから」など。17人は「憧れるのをやめた」と答えた。
西脇工の西村真司郎主将(3年)も「憧れるのをやめた」と話す。その理由は、兄との約束にあった。
コロナ禍の5年前、夏の甲子園は中止。兄の颯一郎さんは宮崎日大の選手として、夏に開かれた宮崎県の独自大会で優勝したが、甲子園出場はかなわなかった。
「おれの分まで頑張ってくれよ」。表情には出さなかったが、兄の言葉からは悔しさがにじみ出ていた。
「任せろ」と答え、心を決めた。兄との約束を果たすためにも、甲子園への憧れは捨てた。「甲子園は憧れる場所ではなく、自分たちが出場する場所です」
自分の夢のため、家族のため、支えてくれた人のため。高校球児の様々な思いがぶつかり合う最後の夏が、幕を開けた。